ものづくりの本質を磨きながら、新時代を勝ち抜く。
ドリームベッド株式会社
代表取締役社長 小出 克己
1948年、山口県出身。広島銀行を経て2003年にドリームベッドに入社。取締役、専務取締役ののち、代表取締役社長に就任。趣味は釣り。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
新規上場を見据える中でコロナ禍へ。大きな2つの契機を経て。
前回のインタビューは2017年でしたが(ページ下部『関連インタビュー』参照)、それから現在までを振り返ると、やはり大きなトピックスは「上場」と「コロナ禍」ということになると思います。
まず上場という部分では、2021年6月に東証2部に新規上場しました。当社は60年を超える「同族経営」からの脱却を図り、私が中途入社した2003年以降、そして、2017年の社長就任後も様々な改革を推進してきましたが、“上場チャレンジ開始”を機に、その改革は加速しました。
従来は経営陣や管理職層によるトップダウンの色合いが強く、一般社員は自分たちの考えややりたいことがあっても、“上から指示されたこと”しかできないという側面が大きく残っていました。そのため、いつしか社員自身の中にも『そういうものだ』というマインドが生み出されるようになっていたのです。
しかし上場を見据え、よりオープンな会社を志向する中で、「それではいけない」と全社員で意識を変化させるように舵を切りました。特に、変化に敏感で、柔軟性が高い若い世代を中心に、新しい発想や取り組みをボトムアップでどんどん生み出していく。そして管理職や経営陣はそれを理解し、受け入れていく。そのサイクルを回しながら、良いと思えばそこに「ヒト・モノ・カネ」を投下するようになっています。まだまだ過渡期ですが、上場が一つの契機となっていることは事実です。
それから、『コロナが変化を加速させた』とよく言われますが、それは当社においても例外ではありません。行動の制約がある中で、例えば営業シーンにおいても、これまでは「客先に出向かなければ商売にならない」という感覚が当たり前でしたが、決してそうではないということを皆が理解しました。リモートでの接客や、バーチャルショールームといった3Dの営業ツールを駆使することで、新しいスタンダードを生み出すことができました。
ここでも推進力になったのは、やはり“若い力”です。かねてより進めていた組織改革の中でコロナ禍が相まって、若い世代のエネルギーや存在感がどんどん増しています。“下からの突き上げ”ではないですが、こうした変化は管理職層より上位の面々にとっても大きなインパクトになっています。
「より良いものを」高まるブランド志向の中で発揮する強み。
家具・インテリアの業界に目を向けると、やはり業界全体でコロナ禍の影響はありました。ただ、一時的にぐっと冷え込んだものの、いわゆる“巣ごもり需要”によって急激に回復したという印象です。住環境やライフスタイルに対する意識が高まる中で、当社の主力製品であるベッドやマットレス、ソファに関しても、「良いものを使いたい」「ちゃんとしたブランドのものが欲しい」というニーズが高まっていることを感じます。
もともと当社はサータ社(米)、リーン・ロゼ社(仏)といった世界の一流ブランドの製品をライセンス生産することに強みを持っていますので、そういったブランド戦略を一層強化しているところです。ドリームベッドという自社ブランドを持ちつつ、海外の有名ブランドを活かした事業展開を加速させる。そのための取り組みとして始めたことの一つが、デジタルマーケティングです。
これまでに無いクリエイティビティを発揮しながら、メーカーとしての本質を追求し続ける。
デジタルマーケティングと言っても、いわゆる「DtoC(Direct to Consumer)」を志向するものではなく、もう一つ当社が強みとしている「販売店との営業網」を最大限に活かすための施策です。自社ブランドや海外ブランドについて、あるいは製品についてエンドユーザーに認知してもらい、その取り扱い先として各販売店と接点を持っていただく。そこで製品を体感してもらい、購入に繋げていくというプロセスをメーカーの立場から作ろうとしています。インナーセールス的な側面で、販売店の後方支援をしていくというイメージです。将来的にはエンドユーザーに対して直接我々がアプローチするような機会も視野に入れながら、新設した部門を中心に、これまでに無いクリエイティビティを発揮しています。
それから、やはり何と言っても「良いものをつくる」というメーカーの本質は引き続き追求しています。現在、工場の建て替えと設備・システムの刷新の最中で(2023年1月完成予定)、さらなる技術開発や品質の向上、生産性の向上に向けた投資を惜しみなく進めています。
そして良いものをエンドユーザーに広く届けていくという営業面においても先行投資を積極的に行っています。約100名の営業メンバーには全員にタブレット端末を支給し、カタログの閲覧や提案資料の作成もスピーディーに行えるように。また様々な勤務形態や活動履歴もデータとして管理することで、マネジメント層がタイムリーに計数管理を行えるようにしています。
そういった設備やツールに投資する中で特に意識しているのは、それを生かすも殺すも人であるということです。「これを使いなさい」という“お仕着せ”ではなく、それらをどのように活用し、どのように利便性を上げていくか、自分たちで考えながら工夫していくという意識がもっとも重要で、「それはあなた方にかかっている」と社員にはいつも伝えています。
働きやすさや効率を追求することで、おのずと社員一人ひとりの主体性が高まっている。
そういった先端設備やデジタルツールに投資する効果としてもう一つ強く感じているのが、社員の働きやすさや効率を追求しながらマネジメントできるようになったということです。設備によって生産性が向上すれば、必然的に社員の負荷は減り、その分、新しいことにトライできる。ツールの活用によって、リモート勤務など柔軟な働き方ができれば、事業所ごとの事情に合わせた運用ができる。そんなふうに、その都度本部が関与せずとも、現場の裁量で物事が進められるようになったのは大きな進化です。
そういう意味では、働き方を変化させることで、社員一人ひとりの主体性を高められるのは、あらためて大きな気付きですね。
絶えず「第一歩」を踏み出していくこと。
加速度的な外部環境の変化に加えて、自らが先駆けて変化していくことに舵を切っている当社では、新たな戦力を迎え入れることにも引き続き注力していく考えです。機械や電気、ITといった技術領域や生産領域の人材を始め、バックオフィスやセールス、マーケティング系など、あらゆる領域での採用強化を見据えています。
いずれも経験やスキルといった一定の採用基準は設けますが、それ以上に大切にしているのは、パーソナリティの部分です。素直であったり、いろいろなことに対して吸収力のある方、適応力が高かったり、自分を高めるということに対して意識的に取り組める方、そういった方をぜひお迎えしていきたいですね。
それから、そういった方を迎え入れるための体制強化もさらに進めていきます。この数年の組織改革以前の歴史の中で受け継がれてきた制度など、言わば旧態依然としたものがまだ残っていると感じています。
例えば都市圏からU・Iターンをお考えの方にとって、地方との給与格差は大きな問題でしょう。あるいは、これまで培ってきたものを地方で存分に発揮できるのか、そんなギャップに不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。それらを埋めていくための仕組みづくりに早急に手を打っていきたいと考えています。
あれは駄目、これは無理、と言っていては前には進めません。リスクを取ってでも、まずは第一歩を踏み出すことが、私は大事だと思っています。